【三大特撮ヒーローの“孤独”】仮面ライダー・ウルトラセブン・キカイダー、なぜ彼らは苦悩したのか

子供の頃、テレビの前でヒーローに熱狂した。

変身ポーズを真似し、必殺技の名前を叫び、怪獣の人形を投げ飛ばした。彼らは、無敵で、正義で、そして何よりも、私たちの憧れそのものでした。

しかし、大人になった今、彼らの物語を改めて思い返すと、その圧倒的な輝きの裏に、深く、そして静かな“孤独”や“苦悩”が隠されていたことに気づかされます。

本記事では、1970年代初頭に登場し、「特撮ヒーロー」というジャンルの礎を築いた三人の伝説的なヒーロー、仮面ライダー、ウルトラセブン、キカイダーを取り上げます。

なぜ彼らは、ただの勧善懲悪のヒーローではなかったのか

その戦いの裏にあった「苦悩」の本質を、現代の私たちの視点から紐解いていきましょう。

目次

「苦悩するヒーロー」の誕生

1970年代初頭は、高度経済成長の歪みが社会問題化し、公害や学生運動など、世の中が複雑な様相を呈し始めた時代でした。

単純明快な正義だけでは割り切れない社会の空気を反映するように、エンターテインメントの世界でも、それまでのヒーロー像を覆す、新たな物語が生まれました。

それが、「人ならざる者」として、その強大な力の代償に大きな苦悩を背負うヒーローたちの姿です。

彼らは、ただ敵を倒すだけでなく、自らの存在意義そのものを問いながら戦い続けました。その苦悩こそが、彼らの物語に他にない深みとリアリティを与え、当時の子供たち、そして大人たちの心を強く掴んだのです。

三人のヒーロー、それぞれの十字架

① 仮面ライダー(本郷猛): “非人間”にされた男の、終わらない戦い

  • ヒーローの出自と苦悩:優秀な科学者であり、オートレーサーでもあった本郷猛は、世界征服を企む悪の秘密結社「ショッカー」に拉致され、バッタの能力を持つ改造人間にされてしまいます。脳改造の寸前に脱出し、人間としての心は保ったものの、彼の肉体はもはや人間のものではありませんでした。
  • 孤独の本質:彼の苦悩の根源は、憎むべき敵と“同質”の力を持ってしまったことにあります。人々を守るために振るうその力は、ショッカーから与えられた忌まわしい力。そして、ひとたび変身を解けば、彼もまた常人には理解されない「異形の存在」でした。誰にもその苦しみを打ち明けられず、たった一人でショッカーとの終わらない戦いに身を投じる。それが仮面ライダーの背負った「存在の孤独」でした。
スペック項目内容
放送開始年1971年
ヒーローの正体改造人間(サイボーグ)
苦悩の源泉人間性を奪われ、敵と同質の力を持つこと
キーワード改造人間、ショッカー、裏切り、孤独な戦い

② ウルトラセブン(モロボシ・ダン): “異星人”として地球を愛した、究極の孤独

  • ヒーローの出自と苦悩:M78星雲から、地球の観測員としてやってきた恒点観測員340号。彼は、地球人の持つ優しさや勇気に心打たれ、自らの意志で地球を守ることを決意し、モロボシ・ダンと名乗ります。彼は、他のウルトラ兄弟のように地球人と一心同体になるのではなく、自らの姿を人間に変えて地球で生きていました。
  • 孤独の本質:彼は、地球人でもなければ、故郷の仲間と共にあるわけでもない、完全な「異邦人」でした。地球を愛するがゆえに、時に同じ宇宙から来た同胞(侵略者)と戦わなければならない。その戦いは、常に複雑な道徳的ジレンマを伴いました。最終回、長年の戦いで肉体は限界を迎え、愛する仲間たちに正体を明かし、傷ついた体で故郷の星へ帰らなければならなかった彼の姿は、「異邦人の孤独」の極致と言えるでしょう。
スペック項目内容
放送開始年1967年
ヒーローの正体異星人(M78星雲人)
苦悩の源泉故郷を離れ、たった一人で異郷の地を守ること
キーワード異星人、ウルトラ警備隊、正体の告白、故郷への帰還

③ 人造人間キカイダー(ジロー): “不完全な心”を持つ、機械と人間の狭間で

  • ヒーローの出自と苦悩:ロボット工学の権威・光明寺博士によって、悪の組織「ダーク」から人々を守るために作られた人造人間(アンドロイド)。しかし、彼の体内には「良心回路」が不完全な状態で埋め込まれています。
  • 孤独の本質:キカイダーの苦悩は、敵との戦い以上に、自分自身の内部にありました。彼の良心回路は、敵の首領プロフェッサー・ギルが奏でる悪魔の笛の音によって激しく苛まれ、善と悪の間で引き裂かれるのです。「自分は人間なのか、機械なのか」「自分の意志は本物なのか」。左右非対称の赤と青のデザインは、まさに彼の不完全で引き裂かれた心を象徴しています。彼の戦いは、答えの出ない問いを抱えながら、自らの存在証明を求める「内面の孤独」との戦いでした。
スペック項目内容
放送開始年1972年
ヒーローの正体人造人間(アンドロイド)
苦悩の源泉善と悪の間で揺れ動く「不完全な良心回路」
キーワード人造人間、良心回路、善と悪、アイデンティティ

比較と考察

彼ら三人のヒーローは、なぜこれほどまでに私たちの記憶に深く刻まれているのでしょうか。

  • 共通点:三者とも、人間社会から隔絶された**「人ならざる者」であるという点。そして、彼らの持つ圧倒的なパワーが、そのまま彼らの苦悩の源泉**となっている点です。彼らは、その力を誇るのではなく、むしろ呪いのように感じながら、孤独な戦いを続けていました。
  • 相違点(「孤独」の性質の違い)
    • 仮面ライダーの孤独は、人間としてのアイデンティティを奪われた「存在の孤独」
    • ウルトラセブンの孤独は、故郷を離れた異邦人としての「異郷の孤独」
    • キカイダーの孤独は、自分自身の心の中で善と悪が戦う「内面の孤独」

【Mitorie編集部の視点】

なぜ70年代の子供たちは、これほどまでに苦悩するヒーローに熱狂したのでしょうか。
それは、彼らの姿が、高度経済成長期の日本社会が抱えていた“歪み”や“不安”のメタファーだったからかもしれません。

急激な工業化の中で人間性が失われていく感覚(仮面ライダー)、都市化によって故郷を離れた人々の疎外感(ウルトラセブン)、そして、複雑化する社会の中で「正しいこととは何か」と葛藤する個人の姿(キカイダー)。

ヒーローたちの苦悩は、実は当時の大人たちが感じていた苦悩そのものだったのです。
彼らは、「真の強さとは、無敵であることではなく、弱さや苦悩を抱えながらも、それでも戦い続けることだ」という、時代を超えたメッセージを、私たちに教えてくれていたのではないでしょうか。

まとめ

単なる正義の味方ではない、深い苦悩と孤独を背負った三大特撮ヒーロー。彼らの物語は、今もなお、私たちに多くのことを問いかけます。

ヒーロー名その正体孤独のタイプ
仮面ライダー改造人間存在の孤独(奪われた人間性)
ウルトラセブン異星人異郷の孤独(故郷なき守護者)
キカイダー人造人間内面の孤独(引き裂かれた心)

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